哲学的問答法(ディアレクティケー)とは
哲学的問答法とは、古代ギリシャの哲学者ソクラテスが相手を真理に目覚めさせるために用いた対話法です。
ソクラテスは、道中で若者をつかまえてはこの哲学的問答を行い、若者が自ずから真実の知を悟るのを助けました。
ソクラテスの若者への教育の特徴は、無知な人間に徳や知識を「教え込む」という啓蒙ではなく、人間であれば誰もが内に秘めている真理をただ目覚めさせる手伝いをする、という考え方をする点です。
哲学的な問いかけによって、対話者の内にあるこの真理を発掘する様子を、ソクラテスは助産師の「産婆術」というように喩えています。
哲学的問答法のメリット
哲学的問答法を継続して行うことで得られる効果は様々ですが、
「自らの内にある真理を体験し、信念を形成する能力を身につけられる」
ことが、私が実践してみて感じたメリットです。
問答を続けていると、自分でも思いのよらない「ひらめき」「気づき」があり、「私はこんな考えを自分の内にもっていたのだ」とびっくりする瞬間が訪れるかもしれません。
こうして出てきたアイデアは、つまるところ自分の魂が導き出した「主体的真理(自身で体感的に悟ったこと)」です。
おそらく誰もが、自分で気づいたことは他人から押しつけられたことの数倍信用するように、この主体的真理はあなたの信念として、様々な人生の局面において強い自信を与えてくれることでしょう。
問答によって、この主体的真理も何度も棄却されるわけですが、棄却とひらめきを繰り返すうちに、より精錬された答えが発掘されていきます。
このような、「自分の魂から真理を掘り出す能力を磨く」という点がソクラテスの哲学的問答法の真髄ではないかと思います。
ソクラテス・プラトンの思想だけではなく、多くの宗教の教えにおいて、人間にはもとよりあらゆる真理(魂、アートマン、聖霊)が備わっているとしています。しかし、もしそうだとしても、自分の中から真理を「掘り出す能力」がなければ、自分のものとして体験することは決してできないでしょう。
哲学的問答法はこの真理を掘り出す能力を鍛えるために、ソクラテスが編み出したひとつの修行法といえるでしょう。
対話の中で、若者が何度も自分の魂からことばを「掘り出す」ことを余儀なく迫り、真理という赤子の出産を促したのです。
哲学的問答法のやり方
ソクラテス以後、様々な問答法、対話法が研究されていますが、その中でもソクラテスの問答法に近く、また容易に実践可能なものとして、フランスの哲学者オスカー・ブルニフィエの考案した、
「相互問答法」があります。
相互問答法の流れ
1.質問者が哲学的な問いかけをする
例)人間とは何か。
2.回答者がそれに対する答えを提示する
例)人間とは動物の一種である。
3.質問者が2.の回答に関して質問し、吟味を行う
例)動物と人間とでは全ての性質が同じですか。
4.回答者はさらにその質問に回答する
例)異なる部分もあります。
5.3~4を何回も繰り返す。
例)その異なる部分とは何ですか?
回答者が思考停止の状態(無知の知)まで到達したら、回答者を変えて、再度1~5を繰り返す。
必要に応じて、問答の内容を振り返って考えを深めたり、さらに新しい問いを掘り出して、問答を行う。
問答を行う際のポイント
- 問答の目的は自分や相手の価値観を深く理解しようとすることにある。
- 論破しようとはせず、安心して対話ができるよう心がける。
- 質問者は質問しかせず、自分の考えは表明しない。
- 回答の矛盾はむしろ尊重し、そこについてより深く質問をする。
- 一つの質問につき、一つの回答のみを行う。
- できるだけ短く端的に質問する、答える。
質問を行う際のポイント
質問に慣れないうちは、以下の「哲学者の道具箱(The Good Thinker’s Toolkit)」を用いて質問を行う。
- What:意味(それはどういう意味ですか)
- Reasons:理由(その理由を教えていただけますか)
- Assumptions:前提(それは~を前提としていませんか)
- Inferences:推論(もしそうだとすると、~ということになりませんか)
- Truth:真実(それは本当でしょうか)
- Examples:例(それの具体的な例を挙げてくれますか)
- CounterExamples:反例(それには~のような例外もあるのではないですか)
以上の方法で、哲学的問答法をスムーズに行うことができるでしょう。
↓↓↓
こんな記事を書いておいて、なんですが・・・哲学より「瞑想」を勧める理由を紹介します。